乗り物

海外から見た日本の鉄道網の分析、日本はどのように「21世紀最強の鉄道システム」を築き上げたのか


日本の鉄道は先進国の中で最高クラスの水準で人の移動を担っており、旅客キロの28%が鉄道で占められています。ブロガーで鉄道ファンのベネディクト・スプリングベット氏が、日本の鉄道の強さを日本人の国民性ではなく、民営化のあり方、都市開発、土地利用、自動車政策、規制設計といった制度の積み重ねから説明しています。

The secrets of the shinkansen
https://www.worksinprogress.news/p/the-secret-behind-japans-railways

スプリングベット氏は、日本の鉄道の強さは「日本人は従順だから公共交通を使う」といった文化論では説明できないと述べています。日本人は車も好みますが、それでも鉄道に乗るのは、単純に鉄道システムの出来が非常に良いからという主張です。

日本の鉄道網は多数の事業者に分かれ、しかもほとんどが民間企業で、最大手のJR東日本は中国とインドを除くどの国の鉄道システムよりも多くの乗客を運び、補助金への依存も欧米より小さいとされています。


歴史をたどると、日本では明治期に鉄道が導入され、20世紀初頭には国有化が進みましたが、すべてが国有化されたわけではありませんでした。戦前から私鉄の新設が続き、アメリカでは消えていった都市間電気鉄道に近い路線群が、日本では統合と改良を経て、現在の強い私鉄網へ育っていったと整理されています。日本の鉄道は旧国鉄を引き継いだJR各社に加え、戦前から続く大手私鉄や中小私鉄、地下鉄、モノレールなどが並び立つ多元的な構造です。

たとえば、大阪-神戸間の通勤輸送は1社が独占しているのではなく、阪急・阪神・JRなど複数の鉄道会社がほぼ同じ区間で正面から競争しています。スプリングベット氏は大阪と港湾都市・神戸の間で3本の別個の通勤路線が並行して走り、場所によっては互いの間隔が500m未満になると指摘。つまり、日本の大都市圏の鉄道は「1つの巨大事業者が一元的に担う仕組み」ではなく、近いルート同士で利用者を奪い合う競争構造を持っているというわけです。


この多様な鉄道会社に共通する成功の核心として、スプリングベット氏は「鉄道会社は鉄道だけを走らせるのではなく、街そのものを作る」という発想を挙げています。たとえば沿線に住宅地だけでなく、オフィスや病院、スーパー、娯楽施設、さらには高齢者施設までを鉄道会社が築き、鉄道が生む価値を運賃以外でも回収できる仕組みが築かれているというわけです。

このモデルは阪急電鉄が1950年代に先駆けたもので、住宅地を作り、終点に阪急百貨店を置き、温泉や動物園、宝塚歌劇まで育てました。ほかの鉄道会社も同様に事業を広げ、たとえば京成とディズニーによる東京ディズニーランド、東急電鉄と東急百貨店など、沿線価値を高める多角化が鉄道経営を下支えしてきました。


この循環を支えているのが、日本の土地利用の柔軟さだとスプリングベット氏は指摘。鉄道沿線に新しい住宅地を作りやすく、都心側でも高密度な開発を比較的妨げないため、駅へ人が集まりやすく、さらに人が集まることで鉄道の利用も増えるという好循環が生まれます。

重要なのは、日本の都市が一様に超高密度だというわけではないことです。むしろ住宅地は低層で戸建ての比率も高く、東京の平均的な人口密度はパリやマドリード、アテネなどより低いとされますが、その一方で東京や大阪の中心部はきわめて巨大で高密度であり、そこへ大量の通勤客や買い物客を運び込む手段として鉄道が非常に強い力を発揮します。

こうした街の成長を可能にした制度の1つが土地区画整理です。住民と地権者の3分の2の合意があれば再編を進められる仕組みによって、線路の新設や複線化、駅前の再開発が進めやすくなり、東急の田園都市線では30年かけて3100haが再編され、人口が4万2000人から50万人超へ増えたとされています。


一方で、日本は決して反自動車の国ではありません。全国で見れば移動の過半は車で行われ、道路も充実していますが、公道上の駐車を原則禁じ、車を買う前に私有地の夜間駐車場所を確保していることを示さなければならないため、都市部では車の利用コストが利用者自身に見えやすい形でのしかかります。

その結果、自治体が大量の駐車場設置を義務づけなくても都市が回りやすくなり、中心市街地の土地は駐車場ではなく別の用途に使われやすくなります。都心では駐車が他の土地利用に負けやすく、鉄道が人を集める都市構造と矛盾しにくい環境ができています。

もう1つの大きな転機が旧国鉄の民営化でした。旧国鉄は新幹線の建設や幹線の電化、複々線化など大きな成果を挙げた一方で、政治的な事情から不採算の地方路線を整理しにくく、労働問題や過剰人員も重なって、1980年代初めには約200路線のうち黒字は7路線しかない状態に陥っていました。


1982年に国鉄民営化が始まり、地域ごとのJR各社へ再編されたことで、線路、車両、駅、ダイヤを一体で持つ垂直統合型の体制が復活しました。人員は大きく削減され、不採算83路線も整理され、生産性と収益性は大幅に改善し、その後のJR各社は商業施設や観光事業にも広く乗り出していきました。

もっとも、日本の鉄道は完全な自由放任で成り立っているわけではありません。運賃には上限規制がある一方で、その上限は利益を確保できるよう比較的ゆるやかに設定され、日々の運行判断は事業者に委ねつつ、バリアフリー化や耐震化、踏切除去のように公共性の高い設備投資には補助や融資が用意されています。

スプリングベット氏は「こうして見ると、日本の鉄道が強い理由は、国民性よりも制度設計の積み重ねにあります。沿線の価値を自ら育てて取り込む私鉄の経営、高密度な中心市街地を許す土地制度、自動車に過度な暗黙補助を与えない仕組み、そして投資意欲を損なわない形の民営化と規制が重なり合った結果として、日本は21世紀でもなお世界でもっとも力強い鉄道システムを維持しているのです」と述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
線路と道路の両方を走れる世界初のDMVを阿佐海岸鉄道で見てきた - GIGAZINE

歩行者・自転車と鉄道が並んで渡れた「淀川橋梁(赤川鉄橋)」とおおさか東線の工事進捗を見てきた - GIGAZINE

ビジネス目的の利用も可能、Nゲージ鉄道模型に見る近未来型都市 - GIGAZINE

鉄道好きのエンジニアが購入した家の地下室で広大な鉄道模型ジオラマを発見 - GIGAZINE

鉄道・道路・電力などあらゆる種類のネットワークについて最小のコストで最大のトランスポートフローを最高速で計算できるアルゴリズムが爆誕 - GIGAZINE

JR西日本が鉄道設備のメンテナンスに人型ロボットを導入することを発表 - GIGAZINE

JR東日本が公式に業務用鉄道運転体験ソフト「JR東日本トレインシミュレータ」を家庭向けにリリースしたので遊んでみた - GIGAZINE

in 乗り物, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article An analysis of Japan's railway netwo….