核融合発電スタートアップが高い電力需要を受けて「核分裂発電(原子力発電)」の副業を開始

核融合発電技術の開発は難航しており、物理学者や技術者たちが数十年以上核融合発電の実現に向けて取り組んできましたが、まだ実用化のめどは立っていません。そうした状況の中、これまでに3億ドル(約480億円)を調達している核融合発電スタートアップのZap Energyが「前例のない規模の電力需要がある」ことを理由に、既存の原子力発電と同じ核分裂反応を利用する小型・モジュール式の先進原子炉事業に参入することを発表しました。
An integrated nuclear future: fission today, fusion tomorrow. | Zap Energy
https://www.zapenergy.com/announcement

Fusion power startup Zap Energy pulls a partial pivot, adding nuclear fission to the mix | TechCrunch
https://techcrunch.com/2026/04/29/fusion-power-startup-zap-energy-pulls-a-partial-pivot-adding-nuclear-fission-to-the-mix/
Zap Energyはこれまで、核融合発電の商業化を目指してきました。核融合は、太陽などの恒星を輝かせている反応と同じ原理でエネルギーを取り出す発電方式で、クリーンかつ豊富なエネルギー源になる可能性があるとして長年注目されてきました。Zap Energyが開発している方式は「せん断流安定化Zピンチ(SFS Z-pinch)」と呼ばれるもので、巨大な超伝導磁石や高出力レーザーを使わず、プラズマ内の流れを利用して核融合条件を作ろうとする、比較的シンプルな方式だと説明されています。
しかし、Zap Energyは「エネルギー転換は核融合だけを待つことはできず、待つべきでもありません」と述べています。背景にあるのは、AIインフラ、電動輸送、先端製造業、国家のエネルギー安全保障などによって、安定して使える二酸化炭素フリー電力への需要が急増していることです。特にAIデータセンターの電力需要は2030年までに約3倍になると予測されており、テクノロジー企業は将来の理想的な電源ではなく、今すぐ現実的に使える電力を必要としています。
Zap Energyの新CEOであるザブリナ・ジョハル氏はIT系メディア「TechCrunch」の取材に対し、「世界には、必要とされるすべてのデータセンターを建設するのに十分な電力とエネルギーがありません」と述べています。さらに、「現在の電力網にとって意味のあるものを、より早く手に入れる必要がありました」とジョハル氏は核分裂発電に参入することを決めた理由を説明しています。
核融合発電と異なり、核分裂発電は一般的には「原子力発電」と呼ばれる、すでに商業的に実用化されている技術です。核融合は水素のような軽い原子核を融合させることでエネルギーを取り出す方式ですが、発電所として継続的に電力を供給する段階には達していません。一方、核分裂はウランのような重い原子核を分裂させてエネルギーを取り出す方式で、人類は1950年代から核分裂発電を行ってきました。
ただし新たにZap Energyが取り組むのは、既存の原子力発電所で主流の大型軽水炉ではなく、溶融塩冷却で出力30万kW以下の小型モジュール炉(SMR)です。SMRはまだ開発・実証段階にある技術ですが、実際に運転されている例も複数あり、核融合発電よりは実用化が近いとされています。
Zap Energyによると、核分裂発電と核融合発電の間には「誤った壁」が存在しているとのこと。Zap Energyは核分裂発電と核融合発電を別々の産業として扱うのではなく、同じ技術的連続体の上にある2つの技術と見なしています。核分裂炉と核融合炉は、高温材料、原子力グレードの製造技術、熱輸送システム、モジュール式建設、発電所の周辺設備、規制対応、サプライチェーンなど、多くの課題を共有しているため、両方を同時に開発することで原子力技術全体を加速できるというわけです。

短期的には小型の先進的な核分裂炉が安定した二酸化炭素フリー電力を供給しながら、将来の核融合発電所に必要な産業基盤を整える役割を果たしつつ、長期的には核融合発電が原子力エネルギーの領域を拡張し、最終的に世界のエネルギーシステムを大きく変える可能性があるとZap Energyは述べました。
Zap Energyが特に強調している共通技術が「液体金属を使う発電システム」です。リチウムやナトリウムなどの液体金属は熱性能が高く、放射線への耐性も優れているため、先進的な核分裂炉と核融合発電システムの両方にとって有用です。Zap Energyは、核融合向けに開発してきた高温での液体金属循環、材料適合性、熱抽出技術を、先進的な核分裂炉にも応用できると説明しています。
液体金属以外にも、核融合環境向けに開発された先進材料は小型核分裂炉の耐久性向上に使える可能性があり、3Dプリントなどの積層造形技術は複雑な原子炉部品の製造に役立ちます。さらに、タービン、熱交換器、電力変換装置、送電網との接続技術といった発電所の周辺設備は、核分裂炉と核融合炉でかなり共通しています。Zap Energyは、核分裂発電と核融合発電のために別々の産業基盤を作るのではなく、両方を同時に進める単一の統合プラットフォームを構築するとしています。
Zap Energyは、核分裂技術と核融合技術を組み合わせた「ハイブリッド原子力システム」も視野に入れています。たとえば、核融合によって発生させた中性子を使い、先進的な核分裂燃料サイクルを支援したり、放射性廃棄物の削減に役立てたりする構想は、科学界で長年研究されてきました。Zap Energyは、核分裂と核融合の両方に取り組むことで、こうしたハイブリッド原子力システムを商業的に検討できる立場になると述べています。
規制面でも相乗効果があるとのことです。核融合発電は核分裂発電より許認可を得やすいイメージを持たれる場合が多いものの、実際には核融合発電所であっても放射化された材料、放射線環境、大規模な産業設備を扱うため、厳格な安全基準を満たす必要があります。一方、先進的な核分裂炉はすでに世界各地で許認可手続きが進んでおり、Zap Energyは小型核分裂炉の開発を通じて、将来の核融合発電を大規模展開するために必要な規制対応の経験や、規制当局との関係を築けると見ています。
核分裂発電にも課題はあります。数十年の実績があるにもかかわらず、原子炉を低コストで建設することは依然として難題です。小型モジュール炉、つまりSMRを開発する企業は、大量生産によってコストを下げられると期待していますが、量産効果が実際にどれほどコスト低下につながるかはまだ実証されていません。
ジョハル氏によると、Zap Energyは新しい核分裂発電事業から1年以内に収益を生み出すことを見込んでいるとのこと。ただし、Zap Energyのビジネスモデルは実際に発電して電力を売ることだけに依存していません。収益源としては、アメリカ国防総省やエネルギー省の連邦プログラムのほか、大量の電力を必要とする企業からの開発段階ごとの支払い、将来の生産能力の予約などが考えられるとのことです。
Zap Energyの核分裂炉は、「4S」と呼ばれる設計をベースにする予定です。4Sは、東芝と日本の電力業界の研究機関が共同開発した、溶融塩冷却の原子炉設計です。4Sは最終的に建設されませんでしたが、ジョハル氏によると、4S設計には「知的財産のしがらみがない」とのこと。つまり、Zap Energyは既存の複雑な権利関係に縛られず、4Sを基にした小型核分裂炉の開発を進められると見ているわけです。
Zap Energyの核分裂発電計画が成功するには、核分裂発電事業から収益を得るか、新たな投資を呼び込む必要があります。原子炉コンセプトを1つ開発するだけでも非常に高額な費用がかかるため、核融合炉とは別の原子炉を開発する計画には大きな資金が必要です。

核融合企業が関連事業で収益を得ようとする例は、Zap Energyだけではありません。Commonwealth Fusion SystemsやTokamak Energyは高温超伝導磁石を他の核融合企業や実験施設に販売しており、TAE TechnologiesやShine Technologiesは核医学分野で事業を展開しています。Zap Energyは、自社の核分裂発電計画が材料試験、発電システム、製造、規制対応などの面で核融合発電所の開発にも役立つと主張しています。
一方で、TechCrunchは、Zap Energyの計画には注意も必要だと指摘しています。核分裂発電と核融合発電には共通点があるとはいえ、両者は依然として非常に異なる技術です。核分裂炉を建設するには、核融合炉とは別の課題と費用が発生します。Zap Energyが核分裂発電への参入によって商業用核融合発電に早く近づけるという主張には説得力がありますが、核分裂事業が一時的な足場ではなく、恒久的な寄り道にならないよう慎重に進める必要があります。
Zap Energyは最終的な目標が核融合発電であることに変わりはないと強調しています。核融合発電を実現するには、プラズマ物理学のブレークスルーだけでなく、工場、技術者、サプライチェーン、規制当局、運転事業者、顧客、そして惑星規模で原子力エネルギーを建設・運用できる産業エコシステムが必要になります。
Zap Energyは、先進的な核分裂発電と核融合発電を同時に開発することで、将来必要になる産業エコシステムを今から構築すると述べています。同社は、単なる核融合企業ではなく、先進的な原子力エネルギーシステム全体を発明し、建設し、配備する「新しい種類の原子力企業」を目指すとしています。
・関連記事
「核融合」は一体どんな反応なのか?次世代のクリーンエネルギーとして期待される理由とは - GIGAZINE
フランスの核融合実験炉「WEST」がプラズマを22分間閉じ込めることに成功して世界新記録を達成 - GIGAZINE
夢のエネルギー「核融合発電」が実用化されるのは結局いつごろなのか? - GIGAZINE
次世代核融合炉「SPARC」のAIデジタルツインを構築し商業化への取り組みが加速、Commonwealth Fusion SystemsがNVIDIA・シーメンスと提携へ - GIGAZINE
「世界初の実用規模の核融合発電所」建設にトランプ・メディアが合意、Googleが支援する核融合エネルギー企業TAEと60億ドルで合併 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in ハードウェア, Posted by log1d_ts
You can read the machine translated English article Nuclear fusion power startups are taking….







