ハードウェア

SpaceXの衛星インターネット「Starlink」のキットがブラックマーケット経由でロシア軍やスーダンの準軍事組織に流されている


SpaceXの衛星インターネットサービスであるStarlinkは、地球低軌道(LEO)上に展開した膨大な数の人工衛星を利用して地球上のほぼ全域でインターネットへのアクセスを提供します。SpaceXの創設者であるイーロン・マスク氏はStarlinkの軍事利用に否定的ですが、ブラックマーケットを通じてStarlinkのキットがロシア軍やスーダンの準軍事組織に利用されていると日刊経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。

The Black Market That Delivers Elon Musk’s Starlink to U.S. Foes - WSJ
https://www.wsj.com/business/telecom/starlink-musk-ukraine-russia-sudan-satellite-communications-technology-f4fc79d9


Starlink terminals are reportedly being used by Russian forces in Ukraine
https://www.engadget.com/starlink-terminals-are-reportedly-being-used-by-russian-forces-in-ukraine-154832503.html

Russian, Sudanese Forces Are Secretly Buying Black-Market Starlink Dishes | PCMag
https://www.pcmag.com/news/russian-sudanese-forces-buying-black-market-starlink-dishes

Starlinkキットには白い平らなアンテナ、ルーター、ケーブルが含まれており、あらかじめプランを契約しておけばどこでもインターネット接続を利用できます。そのため、十分な地上インフラが整っていない紛争地帯やインフラが破壊された戦争の最前線で、Starlinkは貴重なインターネット環境を提供します。

すでにウクライナは、ロシアとの戦争でStarlinkを対戦車爆撃やドローン制御などに活用していますが、マスク氏やSpaceXはStarlinkの軍事的な利用に否定的な見解を示しています。SpaceXは2023年にウクライナ軍のStarlink利用を制限したことを報告しているほか、ロシア政府やロシア軍とのいかなる取引も行わず、ロシアにStarlink端末を販売したり出荷したりすることはないと述べています。もしStarlink端末が制裁対象または無許可の人物によって使用されているという情報を得た場合、SpaceXは調査を行って確認が得られた場合は端末を無効化するとのこと。

SpaceX does not do business of any kind with the Russian Government or its military.

Starlink is not active in Russia, meaning service will not work in that country. SpaceX has never sold or marketed Starlink in Russia, nor has it shipped equipment to locations in Russia. If…

— Starlink (@Starlink)


ロシアや中国は国家の情報統制を弱体化させる可能性があるとして、Starlinkの使用を認めていません。ところが、ロシア軍はブラックマーケットを通じてStarlinkを入手し、軍事目的で衛星インターネットを利用しているとウォール・ストリート・ジャーナルは報じました。


ロシア軍は戦争初期に、無線通信がウクライナによる妨害や傍受にさらされたため、独自の通信システムを確立しようとしたもののうまくいかず、最終的にStarlinkを前線で使用し始めたとのこと。ロシア軍は2023年からStarlinkを使っていましたが、2024年初頭に「他国でStarlink端末を登録してロシアで使う方法」が見つかったことで、さらに広くStarlinkが展開されました。

ウォール・ストリート・ジャーナルの調査では、アフリカ・東南アジア・アラブ首長国連邦などで闇業者が裏取引を行い、数千台ものStarlinkキットを入手してアメリカの敵対者や軍事組織に横流ししていることがわかりました。ディーラーはStarlinkが許可されている国々でハードウェアを登録した後、使用が禁止されている国に端末を販売しているとのこと。これにより、Starlinkのサービスが提供されていないロシアなどの国や地域でも、Starlinkの衛星インターネットに接続できるというわけです。


実際にロシアの検索エンジンであるYandexで検索すると、モスクワなどでStarlinkキットをオンライン販売するバイヤーが多数見つかるとウォール・ストリート・ジャーナルは報じています。例えばモスクワを拠点とするオンライン小売業者の「shopozz.ru」は、戦争の最前線に数十台のStarlink端末を販売したとのこと。「オレグ」と名乗ったshopozz.ruのセールスマンは、ほとんどの注文はロシアが占領したウクライナの地域で使うためか、軍用目的だとウォール・ストリート・ジャーナルに語っています。

別の「strlnk.ru」というウェブサイトは、クリミア半島ルハーンシク(ルハンスク)ドネツィク(ドネツク)などのロシアが占領した地域で、月額100ドル(約1万5000円)でStarlinkキットを提供すると宣伝しています。

戦争の前線にいる軍人らにStarlink端末を届けるのは、輸送業者ではなくボランティアが多いとのこと。2024年2月にはボランティアを名乗るワレンティーナ・コルニエンコ氏という人物が、前線に5台のStarlink端末を届けたことをメッセージアプリのTelegramに投稿しました。

ウクライナ第92旅団に所属する27歳の少佐は、2024年初頭に初めてロシア人がStarlink端末を使っているのを見たと証言しています。「彼らは主に新しいモデルを使用しています」と述べた少佐は、Starlinkのアンテナがあるということは近くにドローンの操縦者がいるという証拠であるため、アンテナ周辺は優先的な攻撃対象になるとウォール・ストリート・ジャーナルに語りました。

すでにウクライナ当局は、ロシア軍がStarlink端末を使用している件についてSpaceXに連絡しており、協力して解決策を模索しているとのこと。アメリカのジョン・プラム国防次官補も4月5日、SpaceXはウクライナと協力してロシアによる前線でのStarlink端末使用を止めさせようとしていると述べました。ウクライナの通信規制当局は2024年3月、キーウの当局に登録されたStarlink端末のみを占領地域や前線で機能させることを義務づける法令を発表しましたが、いつこの法令が発効されるのか、どのように施行されるのかは不明です。


ロシアと同様にStarlinkが公式に展開されていないスーダンでも、アメリカが人道犯罪や民族浄化で非難している準軍事組織のRapid Support Forces(RSF:即応支援部隊)が、ドバイのディーラーから大量のStarlink端末を購入しています。スーダンの国軍と衝突しているRSFは、Starlink端末によって部隊の指揮能力を高めたり兵士を募ったりしているほか、資金稼ぎにも利用しています。

ドバイのディーラーは、まずドバイでStarlink端末を起動し、アフリカ全土を対象にしたローミングパッケージを購入した上で、スーダンの隣国であるチャドや南スーダンに輸出しています。そして陸路でスーダンへ密輸されたStarlink端末を入手したRSFは、スーダン国内で1個あたり2500ドル(約38万円)という通常価格の5倍近い高値で販売しているそうです。また、一部の地域ではStarlink端末の所有者から年間500ドル(約7万5000円)の手数料を徴収しているとのこと。

RSFは民間通信インフラを定期的に破壊しているため、スーダンの一部地域ではStarlink以外の方法でインターネットに接続できません。そのため、Starlink端末を手に入れた民間人は即席のネットカフェを立ち上げ、1時間あたり2~3ドル(約300~450円)の料金でインターネットを提供しているそうです。

こうした事態を問題視するスーダンの電気通信規制当局は、2024年1月にSpaceXへ送った書簡でスーダン国内のStarlink端末増加について苦情を伝えました。当局はSpaceXとスーダン政府が合同チームを設立し、RSFが展開する端末を停止できるようにすることを求めましたが、SpaceXからの返答はなかったとのこと。結果的に規制当局は1月31日、Starlinkの使用者に罰則を設ける声明を発表しました。

スーダン当局は国内のStarlink端末規制を進める一方で、インターネット接続におけるRSFの優位性を損なうため、国軍が独自のStarlink端末を手に入れられるように動いているとのこと。スーダンの諜報(ちょうほう)顧問を務める人物はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「私たちはバックアップ計画を立てなくてはなりません」とコメントしました。

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in ネットサービス,   ハードウェア, Posted by log1h_ik

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