生き物

なぜタコは「無脊椎動物界のスーパースター」と呼ばれるのか?

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タコは食材として多くの人々に親しまれている一方で、無脊椎動物でありながら高度な知能を持っていることも知られています。プリンストン大学の心理学者・神経学者であるMichael Graziano教授が、そんなタコの知能について「Rethinking Consciousness(意識の再考)」という本で述べています。

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地球上に生命が誕生したのはおよそ38億年前ごろとされていますが、それから長い期間にわたって単細胞生物のレベルにとどまっていました。単細胞生物に神経系のようなものは発達しておらず、知性といえるようなものはなかったとGraziano氏は指摘しています。


Graziano氏は、海綿動物は神経系の進化を考える上で重要な生物だと説明しています。人間の祖先が海綿から分岐したのはおよそ7億~6億年前だとのこと。海綿は多細胞生物の中で最も原始的であり、海の底で体内を通り抜ける水の中から栄養素となる粒子や微生物ををろ過して生きています。海綿は人間の神経系を構築する遺伝子と共通する、少なくとも25個の遺伝子を持っており、神経系の進化における境界に位置しているとGraziano氏は考えているそうです。

海綿と同じく古くから存在する生物グループであるクラゲは、海綿とは対照的に神経系を持っているとのこと。あまり化石が残っていないクラゲですが、生物学者は遺伝的関連を分析することにより、クラゲがおよそ6億5000万年前にほかの動物界から分岐したと考えています。この数字は今後の研究で前後する可能性がありますが、海綿が誕生してからクラゲが誕生するまでの過程で、神経系の基本的な細胞要素である神経細胞(ニューロン)が生まれたと考えられています。

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ニューロンは本質的に信号を伝達する細胞で、ニューロンが筋肉などのさまざまな細胞と結び付くことで神経網が構築されます。ヒドラはこのような神経網を持っていますが、神経網だけでは単に情報を他の細胞へと伝達するだけであり、何らかの意味がある情報を処理するという段階には至らないそうです。

単純な神経網をより強力な神経系にするトリックとして、Graziano氏は「信号のブースト」を挙げています。たとえばカニは複眼を持っており、それぞれにニューロンを含んだ光の検出器が配置されています。ある検出器に光が当たると内部のニューロンが活性化しますが、ここで隣接するニューロン同士が互いに競合し、最も明るい部分のニューロンだけが信号を送り、競合に負けたニューロンは信号を送らないとのこと。これにより、カニの目は明るい部分と暗い部分が分かれたコントラストのある画像を取得できると、Graziano氏は述べています。

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カニの目は神経系の基本的なモデルとして考えることが可能であり、人間の神経系のあらゆる処理においても、カニの複眼と同様のシステムを見ることができるとのこと。カニが持つような複眼は、およそ5億4000万年前に出現した三葉虫にも見られることから、三葉虫もカニと同様のシステムを持っていた可能性があります。

Graziano氏は、複数の感覚器官を持つ動物においては異なる箇所の信号を処理し、適切な反応を行う集中的な情報処理機構が必要だと指摘。この種類の情報処理機構は脊椎動物に見られるほか、カニや昆虫といった一部の無脊椎動物にも見られるとのこと。

中でもタコは「無脊椎動物界のスーパースター」ともいえる存在で、驚くほど優れた知能を持つことで知られています。タコや貝類、ウミウシ、イカなどを含む軟体動物は、およそ5億5000万年前に登場したとみられています。イカなどと共に頭足類に分類されるタコは、軟体動物の中でも複雑な脳と洗練された行動を進化させ、およそ3億年前に現代のものに近い形態になったとGraziano氏は述べています。

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タコはガラスびんの中に入ったエサを視覚で認識し、ふたを回してエサを獲得することを学習できます。また、ココナッツの殻などをシェルターに使うケースも確認されており、無脊椎動物において道具を使う非常に貴重な存在です。

人間からは遠く離れた存在であるタコが非常に高い知能を発達させていることは、脊椎動物と無脊椎動物において個別に知能が発達したことの証拠であり、動物における知能の発達が一度きりの出来事ではなかったことを示しています。

タコは生物の中心として機能する脳があるだけではなく、個々の触手にもニューロンの集合体があることがわかっており、「分散型ネットワーク」ともいえる神経系を有しています。

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タコは身体の動きを高度に制御する必要性から、おそらく「自分と自分以外」を認識しているとGraziano氏は述べていますが、それでも「タコが意識を持っている」かどうかはわからないと指摘。もちろんタコが意識を持っている可能性も十分にありますが、「自分自身」についての主観的な認識を持っているかどうかは、これまでのところ不明です。

なお、タコの研究者らはタコの素晴らしさに夢中になっていることから、客観的で信頼できる観察者としては不向きだとGraziano氏は述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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