脳の老廃物を洗い流す機能は睡眠時や麻酔中にむしろ弱まるという指摘
2024年3月にワシントン大学の研究者が睡眠で脳の老廃物を洗い流す仕組みを解明したという論文を発表したばかりですが、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者らのチームが、むしろ老廃物を洗い流す力は睡眠中は弱まっているという、正反対の指摘を行っています。
Brain clearance is reduced during sleep and anesthesia | Nature Neuroscience
https://www.nature.com/articles/s41593-024-01638-y
Sleep does not help brain wash out toxins, study suggests | Neuroscience | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/article/2024/may/13/sleep-does-not-help-brain-wash-out-toxins-study-suggests
先行するワシントン大学のジョナサン・キプニス氏らによる研究は、マウスの脳を分析して、睡眠時にリズミカルな脳波が発生し、脳組織に脳脊髄液を送り込むことで老廃物を洗い流していることを示すものでした。リズミカルな脳波を阻害すると、新鮮な脳脊髄液が送り込まれず、老廃物はそのままになってしまうことが確認されています。
睡眠で脳の老廃物を洗い流す仕組みが解明される、アルツハイマー病などの神経変性疾患の予防に役立つ可能性 - GIGAZINE
インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンダウェイ・ミャオ氏やニコラス・P・フランクス氏らも同じく、マウスの脳を調べました。
フランクス氏は、「睡眠不足では数え切れないほどの問題が発生します。眠っている間に、脳が体の『ハウスキーピング』をしているというのは、理にかなった考え方のように思えます」と認めた上で、「しかし、脳の老廃物除去システムが睡眠中に活動を活発化させることについては、間接的な証拠しかありません」と述べています。
ミャオ氏らは、脳室に満たされた脳脊髄液に蛍光色素を加え、脳の中を脳脊髄液が移動する様子がわかるようにしました。
その結果、脳脊髄液の動きは起きていたときと比べて、睡眠時に30%、麻酔時に50%減少したことがわかりました。
睡眠はすべての哺乳類に共通する欲求であるため、この発見の影響は人間にも及ぶと研究者らは考えています。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのイギリス認知症研究所で暫定所長を務めるビル・ウィスデン教授は今回の研究結果について、「我々がなぜ眠るのかについてはいろいろな説がありますが、少なくとも老廃物を排出することが大きな理由ではないということがわかりました。ただ、睡眠が重要であるということに異議はないでしょう」と語っています。
睡眠不足とアルツハイマー病のリスクを関連付ける研究が近年増加していますが、「睡眠不足がアルツハイマー病を引き起こす」のか、「アルツハイマー病の初期症状として睡眠不足になる」のかははっきりとしていなかったとのこと。
中には「十分な睡眠が取れない場合、脳の毒素が効果的に排出されないのではないか」という仮説もありましたが、今回の研究はこの仮説の信憑性に疑問を投げかけるものとなりました。
ウィスデン教授は「睡眠障害は認知症の人によく見られる症状ですが、病気の進行の結果なのか、病気の要因なのかはまだわかっていません。よい睡眠を取ることは、毒素を排出する以外の理由で、認知症のリスク減少に役立つかもしれません」と述べました。
なお、今回の研究のもう1つの側面としては、起きているときには脳内の老廃物除去が効率的に行われることが示された点があり、ウィスデン教授は「活発に運動している方が、脳内の毒素をより効率的に除去できる可能性があります」と述べています。
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