サイエンス

認知症は「12年前」に予測できるとの研究結果が発表される、ヒントは視覚情報の処理速度


将来認知症になるリスクは、視力聴覚などの認知機能から予測できることが、過去の研究でわかっています。目で見た映像を処理する効率が、有力な認知症の予測因子になることが新しく突き止められました。

How your vision can predict dementia 12 years before it is diagnosed – new study
https://theconversation.com/how-your-vision-can-predict-dementia-12-years-before-it-is-diagnosed-new-study-226356

◆認知症と視覚の関連性
イギリス・ラフバラー大学のアフメット・ベグデ氏らの研究チームは、2024年2月に発表した論文で、視覚の感度の測定により認知症を診断の12年前に予測できることを示しました。

この研究では、イギリス東部の都市・ノリッジ周辺に住む人々の健康を25年以上にわたって追跡した「EPICノーフォーク前向き人口コホート研究」の参加者8623人に対し、視覚感受性テストが実施されました。

研究に使用されたテストは、ドットが移動する画面の中に三角形ができたらすぐにボタンを押すというもの。参加者8623人のうち、537人が後に認知症と診断されましたが、認知症になる人はこの三角形がなかなか見つけられないことが判明しました。


ベグデ氏らによると、アルツハイマー症の人の脳に見られる染みのような「アミロイド斑」は、記憶力に関連する領域を損傷させる前に、まず視覚に関連する脳の領域に有害な影響を及ぼしている可能性があるとのこと。そのため、目の検査をすることで記憶力テストより先にアルツハイマー病の兆候を捉えることができると期待されています。

物を見る力にはさまざまなものがありますが、アルツハイマー病では物体の輪郭を捉える能力、つまり「コントラスト感度」や、青緑色など特定の色を見る能力に影響が出ます。

また、アルツハイマー症患者は気が散るような刺激により目が不意に動いてしまう「衝動性眼球運動」が起きやすいことも、近年の研究でわかってきました。アルツハイマー病では、刺激を無視する「抑制制御」の能力が低下するため、これが眼球運動の制御の問題として表面化する可能性があると考えられます。

注意散漫につながるこうした認知症の問題が、交通事故のリスクを高めているとも考えられており、ラフバラー大学の研究チームによって調査が進められています。

◆人の顔を認識する能力にも影響
認知症の人は、初対面の人の顔を処理する効率が悪いことが、複数の研究により示唆されています。言い換えると、認知症の人は相手の顔を目でスキャンする方法が正常な人とは異なるということです。


健康な人は、相手の顔を目、鼻、口の順番で見ます。これは相手の顔を覚えておくための手順で、相手側も目の前の人がこの順番で自分の顔を見ているかどうかを察知することができます。

一方認知症の人は、初めて会った人の顔など、環境を観察するために意図的に目を動かさないため、目が泳ぐ傾向があります。認知症の人をよく診ている医師の中には、認知症の人と顔を合わせただけでその人が認知症なのかどうか見抜くことができる人もいるそうです。


認知症の患者は、人の顔の特徴をきちんと把握していないため、後でその人を認識することも難しくなります。つまり、「人の顔を覚えられないという認知症の初期症状は、単純な記憶障害というより顔に対する眼球運動の問題という側面の方が強い可能性がある」と、ベグデ氏らは指摘しました。

◆眼球運動で記憶力を向上させられる可能性
ベグデ氏らは、視覚感度が記憶力に関連しているのなら、眼球運動のトレーニングで記憶力を向上させることもできるのではないかと考えています。この問題に関する先行研究の結果はまちまちですが、眼球運動が記憶力を改善させるという研究結果や、よくテレビを見たり本を読んだりする人は、そうでない人に比べて記憶力が高く認知症リスクも低いという研究結果が報告されています。

読書をしたり、テレビを視聴したりする時、人の目は紙や画面の上を頻繁に往復します。また、読書が習慣になっている人は教育を受けた期間が長い傾向があるため、これも脳の余力につながり、脳の一部で接続が切れてもその悪影響を最小限にすることができるようになります。


また、左右の眼球運動を素早く行うことで、自分の人生にまつわる記憶力である「自伝的記憶」が向上することも、これまでの研究で突き止められています。

このような発見が相次いでいるにもかかわらず、この知見はまだ記憶障害の診断に生かされておらず、眼球運動を利用した記憶障害の治療法も一般的ではありません。そのボトルネックとして、アイトラッキング技術の導入にはコストと人材のトレーニングが必要になることが挙げられています。

そのためベグデ氏らは「眼球運動で早期にアルツハイマー病を診断するツールが普及するには、より安価で使いやすいアイトラッカーの登場を待つ必要があるでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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