サイエンス

ニキビの原因菌の遺伝子を組み換えて「ニキビ治療」に利用する技術が登場、アトピー性皮膚炎への応用も


ニキビは主に顔、胸、背中、肩の毛穴の奥にある毛包が詰まったり炎症を起こしたりすることで発生する一般的な皮膚疾患で、青少年をはじめとしたあらゆる年齢層の悩みの種となっています。そんなニキビの原因の1つとなっているアクネ菌(Cutibacterium acnes)を逆に味方にすることで、ニキビの改善に役立つ成分を生み出す「生きた治療薬」にすることができたとの論文が発表されました。

Delivery of a sebum modulator by an engineered skin microbe in mice | Nature Biotechnology
https://www.nature.com/articles/s41587-023-02072-4

Smart skin bacteria are able to secrete and produce molecules to treat acne - Focus UPF (UPF)
https://www.upf.edu/en/web/focus/noticies/-/asset_publisher/qOocsyZZDGHL/content/els-bacteris-intel%C2%B7ligents-de-la-pell-s%C3%B3n-capa%C3%A7os-de-segregar-i-produir-mol%C3%A8cules-per-tractar-l-acne/10193/maximized


Bacteria Responsible For Acne Were Genetically Modified to Treat It Instead : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/bacteria-responsible-for-acne-were-genetically-modified-to-treat-it-instead

アクネ菌は毛包の奥深くなどに生息する細菌で、健康な人の皮膚にも広く存在している一般的な常在菌です。しかし、ニキビの原因となる皮脂が過剰に分泌されて毛包が詰まると、毛穴で増殖してニキビの炎症を悪化させてしまいます。

重症のニキビの場合、毛包に生息する細菌を殺す抗生物質や、皮脂腺細胞の死滅を誘発するビタミンAの一種であるイソトレチノインという薬剤での治療が行われます。しかし、これらの治療法はニキビの原因菌を狙い撃ちにするものではないため、肌の常在菌が作るマイクロバイオームを破壊してしまうおそれがあるほか、抗生物質には光線過敏症、イソトレチノインには極端なフケの発生や、妊娠中に使用した場合の先天性欠損症といった副作用の危険性もあります。


イソトレチノインでニキビが治るのは、この薬によって増加した「好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)」というタンパク質が脂腺細胞を自滅させ、皮脂の分泌量が減るからです。この作用機序に着目したスペインのポンペウ・ファブラ大学の研究チームは、NGALを合成するようにアクネ菌のゲノムを改変する研究を開始しました。

アクネ菌は人の毛包の奥深くというニッチな環境に適応しており、ニキビとの関係も深いことから、ニキビ治療に応用する細菌としては最適です。しかし、アクネ菌の遺伝子を操作して特定の物質を産生させる形質転換という遺伝子操作技術の開発は、一筋縄ではいかなかったとのこと。

その難しさについて、研究の筆頭著者であるNastassia Knödlseder氏は、「これまでアクネ菌は科学者の手には負えない細菌として知られていました。この菌にDNAを導入し、ゲノムに挿入した要素からタンパク質を合成させるのは非常に困難だったのです」と説明しています。


アクネ菌にDNAを送り込むためのさまざまな緩衝液をテストし、最終的にNGALを産生する菌株を作ることに成功した研究チームが、培養した皮脂細胞に改良アクネ菌を塗布する実験を行ったところ、分泌される皮脂の量が大幅に減少しました。また、マウスを用いた実験でも、毛包の奥深くに定着した改良アクネ菌が、塗布から2~4日後もNGALを産生していることが確認されました。

マウスの毛皮は人間の肌とは大きく違うため、遺伝子を組み換えたアクネ菌を実際にニキビ治療に使うには、さらなる臨床試験を重ねる必要があります。


一方、これまで困難とされてきたアクネ菌の遺伝子組み換えに成功したことから、アトピー性皮膚炎などニキビ以外の皮膚疾患にアクネ菌を使う治療法の登場が期待できるようになりました。

研究を主導したMarc Güell氏は、「私たちは、あらゆる細菌を編集して複数の病気を治療できるようにする技術プラットフォームを開発しました。今回は、アクネ菌を使ったニキビ治療の開発に専念しましたが、将来的には皮膚の免疫機能の調節などに関する用途向けのスマート微生物を作る遺伝子回路の提供にも応用することができます」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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