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海底ケーブルが2本切断されアフリカのインターネットが大混乱に陥る、ケーブル切断にもかかわらず遅延が改善されるケースも


現地時間の2023年8月6日(日)、世界最長の海底渓谷のひとつで地滑りが発生し、アフリカにインターネットサービスを提供するための重要な海底ケーブル2本が切断されました。これにより西アフリカの海岸沿いではインターネット帯域幅が激減する事態となり、アフリカのインターネットユーザーが大混乱に陥っています。このアフリカで起きた海底ケーブル切断について、ネットワークモニターサービスやセキュリティサービスを提供するKentikが独自の分析を公開しました。

Dual Subsea Cable Cuts Disrupt African Internet | Kentik Blog
https://www.kentik.com/blog/dual-subsea-cable-cuts-disrupt-african-internet/


2023年8月6日、コンゴ民主共和国とアンゴラにまたがるコンゴ川の河口付近にある世界最長の海底渓谷・コンゴ渓谷で、地滑りが発生しました。これにより、イギリスと南アフリカの西海岸をつなぐ全長約1万4000kmの海底ケーブル「WACS」と、ポルトガル・スペインと南アフリカの西海岸諸国をつなぐ海底ケーブル「SAT-3」の2本が切断されました。最初に障害が発生したのはSAT-3で、数時間後にWACSでも障害が発生しています。

地滑りが起きたコンゴ渓谷(Congo Canyon)の位置は以下の通り。


以下の画像の陸地から海に伸びる濃い青色部分がコンゴ渓谷です。


世界のインターネット網を形成するインフラである海底ケーブルに対する最大の脅威は「人間による海洋活動」です。最も一般的な海底ケーブルの切断理由は「漁船が漁業中に海底ケーブルに錨を引っ掛けてしまい、ケーブルを切断してしまう」というもの。これが原因で、2008年に地中海の海底ケーブルが切断されたことがあります。

海底ケーブルにとっての2番目に大きな脅威が「自然」です。海底で発生した地滑りや地震により海底ケーブルが切断されてしまうということがしばしばあり、2006年12月に台湾の南海岸沖で発生した恒春地震では、複数の海底ケーブルが切断されました。これにより、東アジアのインターネット通信網が麻痺しています。

国際ケーブル保護委員会(ICPC)は、恒春地震の影響について「9本の海底ケーブルで21の障害が発生し、すべてを正常に戻すのに11隻の船舶を利用して49日間作業する必要があった」とアナウンスしています。


さらに、日本人講演者が2013年にパリで開催された海底ケーブル会議のSuboptic 2013の中で、2011年に発生した東日本大震災で損傷した海底ケーブルを修復する取り組みを紹介しています。これによると、東日本大震災により日本の海底ケーブルは、ケーブル1本当たり1kmほど海底に引きずり込まれることとなったそうです。このケースの場合、ケーブルの修復順は契約上の優先順位に沿ってではなく、機能不全に陥った福島第一原子力発電所から発せられる放射線を避けながらケーブル船が安全に航行できる場所をベースに決められた模様。


今回切断されたSAT-3とWACSという2本の海底ケーブルが地滑りにより切断されたのは今回が初めてではありません。2021年6月に発表された研究によると、2020年にコンゴ川河口で起きた大規模な海底土砂崩れによりSAT-3とWACSが損傷したことが報告されています。

また、2022年にはアフリカのエジプトで地上ケーブルが切断され、複数の海底ケーブルサービスが一時停止に陥るという事故も発生しています。この時、KentikはAWS、Azure、Google Cloudという主要クラウドプロバイダーのネットワーク接続への影響を独自に分析しており、大手クラウドサービスでも海底ケーブルに依存していることが改めて証明されることとなりました。

以下のグラフは2023年8月6日に起こった海底ケーブル切断時の、南アフリカ・ケープタウンにあるAWSリージョンから、イギリスのロンドンへの通信パフォーマンスを監視したグラフです。グラフはネットワークのレイテンシー(遅延)を表しており、赤枠部分で急激にレイテンシーが増加していることがわかります。これは、AWSのトラフィックをケープタウンからロンドンへルーティングする際に、ケーブル障害が発生したことで通常とは別ルートを採用することとなり、経路が伸びたことでレイテンシーが「150ミリ秒」から「195ミリ秒」に増加した模様。


一方、ケープタウンからアジアの韓国・ソウルまでのネットワークレイテンシーは、「386ミリ秒」から「304ミリ秒」に減少しています。レイテンシーが減少したことについて、Kentikは「通常使用されている、より長く遅延の大きなルートが利用できなくなることで、トラフィックがより直線的で短い経路を通ることとなり、遅延が短くなることがあります」と言及しています。


なお、「日常的により遅延の大きなルートをトラフィックが通らなければならない理由」について、Kentikは「このケースの場合、ケープタウンとソウルをつなぐ『遅延が最小のルート』は、コストが高過ぎるためです」と説明しています。

2023年8月に起きた海底ケーブル切断時のネットワークトラフィックをモニターしたのが以下のグラフ。Kentikのデータによると、南アフリカ最大のネットワーク事業者はテルコムSAで、同社のネットワークは海底ケーブル切断後にピークトラフィックが最大20%減少しています。


なお、西アフリカにあるナミビアでは海底ケーブルの切断が発生したのち、同国政府が所有する通信事業者のTelecom Namibiaは主要通信プロバイダーであるCogentとBICSのトランジットを約2時間失っています。その後、Telecom Namibiaのネットワークトラフィックは別ルートのケーブルを用いることで復旧しました。


Telecom Namibiaの場合、現地時間の8月6日17時30分頃にAS174(Cogent)とAS6774(BICS)のトランジットを失い、8月6日19時頃にAS37468(アンゴラ経由のケーブル)からのトランジットを獲得し、ネットワークトラフィックを復旧しています。


西アフリカで活動するケーブル修理船「CS Leon Thevenin」は、SAT-3とWACSが切断されたタイミングで、東アフリカ側に停泊して別ケーブルの修理に従事しています。東アフリカでのケーブル修復任務により、CS Leon Theveninは2023年9月までSAT-3やWACSの修復任務に携わる可能性は低い模様。


西アフリカのネットワークトラフィックは2023年初頭に開通したGoogleのEquianoケーブルなど、他の海底ケーブルに分散されています。WACSやSAT-3と同様に、Equianoもアフリカの西海岸沿いに敷設されている海底ケーブルですが、海底で起きた地滑りの影響は受けておらず、これについてはEquianoのクライアントであるLiquid Dataportが強調しています。

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in ネットサービス, Posted by logu_ii

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