サイエンス

本物の心臓のように拍動する擬似心室を3Dプリンターとゼラチン繊維入りのゲルインクで出力することに成功


3Dプリンターの進化によって、PCで入力したデータ通りに生体組織を出力できることが可能になり、3Dプリント技術の医療への応用が期待されています。ハーバード大学のジョン・A・ポールソン工学応用科学大学院(SEAS)の研究者が、ゼラチンを注入したヒドロゲルインクを使い、心臓の鼓動を再現できる擬似心室の3Dプリントに成功したと発表しました。

Fibre-infused gel scaffolds guide cardiomyocyte alignment in 3D-printed ventricles | Nature Materials
https://doi.org/10.1038/s41563-023-01611-3


Fiber-infused ink enables 3D-printed heart muscle to beat
https://seas.harvard.edu/news/2023/07/fiber-infused-ink-enables-3d-printed-heart-muscle-beat


実際に出力した擬似心室が拍動する様子は、以下の画像をクリックするとGIFアニメーションで見ることができます。


ゼラチンはお菓子や料理の材料のイメージが強いですが、もともとは繊維状の動物性タンパク質の一種です。今回SEASの研究チームが使用したのは、このゼラチンを水を主成分とするヒドロゲルに注入したFIG(Fibre Infused Gel)インクです。

SEASの研究員で論文の筆頭著者であるスジ・チョイ氏は「FIGインクは3Dプリンターのノズルを通って流れますが、一度構造が印刷されるとその形状を維持するという特性を持っています。この特性のおかげで、サポート材や足場を使わず、擬似心室のような構造やその他複雑な形状を出力できることがわかりました」と述べています。


チョイ氏らはFIGインクを作るため、SEASの生物物理学者であるキット・パーカー氏の考案した「ロータリージェットスピニング技術」を用いたとのこと。このロータリージェットスピニング技術は綿菓子製造機にヒントを得た技術で、遠心力によって直径1マイクロメートル未満の極細繊維を作り出します。この技術で生成したゼラチン繊維は綿のような外観のシートとなり、チョイ氏らの研究チームはさらにこのゼラチン繊維のシートを長さ80~100マイクロメートル・直径5~10マイクロメートルの微小繊維に超音波で分解し、ヒドロゲルインクに混ぜたとのこと。

このFIGインクで擬似心室を出力する時、印刷方向を制御することで、疑似的な心筋細胞を繊維の方向に沿って一列に並ばせることに成功。そのまま3Dプリント構造に電気刺激を与えたところ、繊維の方向に沿って収縮し、擬似的な拍動を始めたとのこと。チョイ氏は「本物の心臓の心室が拍動するように、擬似心室が実際に拍動しているのを見るのは非常にワクワクしました」と述べています。


さらに印刷の方向やインクの配合を調整することで、擬似心室の収縮をさらに強力なものにできることがわかりました。改良を重ねた擬似心室は、最初に出力した擬似心室と比べて5~20倍の体液を送り出すことができるとのこと。研究チームは液体を強い圧力で送り出せるような、より本物に近い心臓組織の構築に取り組んでいます。

パーカー氏は「FIGは積層造形という目的で私たちが開発したツールの1つにすぎません。再生医療用に人間の組織を構築するために、他の方法も開発中です。ツールが主な目的ではなく、私たちは1つのツールに依存しません。私たちは生物学を構築するより良い方法を模索しているのです」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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