サイエンス

「がんワクチン」など今後登場が期待される3つのmRNAワクチン


人工的に複製したmRNAを用いることで免疫反応を引き起こす「mRNAワクチン」は、従来のワクチンとは異なるもので、ウイルスの遺伝情報さえあれば製造可能という利点があります。新型コロナウイルスのパンデミックに際し、人類が1年足らずでワクチンを生成することができたのは、新型コロナウイルスワクチンであるファイザーの「BNT162b2」とモデルナの「mRNA-1273」が、世界初のmRNAワクチンであった点も大きいとされています。そんなmRNAワクチンは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)だけでなく、さまざまな病気の予防に役立てられる予定であるとして、「研究者たちが開発に取り組んでいる3つのmRNAワクチン」を科学メディアのThe Conversationがまとめています。

3 mRNA vaccines researchers are working on (that aren't COVID)
https://theconversation.com/3-mrna-vaccines-researchers-are-working-on-that-arent-covid-157858

世界初のmRNAワクチンとして開発されたファイザーとモデルナの新型コロナウイルスワクチンは、臨床試験での成功を経て規制当局からの承認を得て、記事作成時点では世界中で接種されています。2021年4月11日時点で、全世界累計の新型コロナウイルスワクチン接種回数は7億8800万回以上。ファイザー製のワクチンは世界の85カ国で、モデルナのワクチンは世界の36カ国で使用されています。

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新型コロナウイルスのパンデミックが起きてから1年未満でワクチンが開発・普及しているという現状は、これまでのワクチン開発からすれば考えられないことでした。従来の感染症向けワクチンはかなり長い年月をかけて開発が進められており、1年足らずで開発されたワクチンは新型コロナウイルスワクチンが初です。

なお、なぜ新型コロナウイルスワクチンがこれほど高速に開発できたのかは、以下の記事を読めばわかります。

なぜ新型コロナワクチンはこれほど高速に開発できたのか? - GIGAZINE


新型コロナウイルスワクチンの普及に大きく貢献した要素のひとつが、ワクチンとしては最新の「mRNAワクチン」という技術が採用された点です。そして、mRNAはあらゆる標的に対して作用するように生成できる可能性があるため、今後、さまざまな病を予防できるmRNAワクチンが登場する可能性があります。

◆そもそもmRNAとは?
mRNAは、タンパク質の作り方を体に伝える遺伝物質の一種です。新型コロナウイルスワクチンでありmRNAワクチンでもある「BNT162b2」や「mRNA-1273」では、SARS-CoV-2が持つスパイクタンパク質の形成指示に関するmRNAを体内に注入します。mRNAを体内に入れた人の免疫系はその後、SARS-CoV-2の表面にあるスパイクタンパク質にうまく反応・処理できるようになるとのこと。

そんなmRNAワクチンは新型コロナウイルスワクチンだけでなく、さまざまなワクチンに応用される見込みです。実際にmRNAワクチンとして開発されている3つのワクチンは以下の通り。

◆1:インフルエンザワクチン
モデルナは季節性インフルエンザに対抗するために、mRNAワクチンの開発プログラムを発表しています。このプログラムは世界保健機関(WHO)が流行すると予測しているインフルエンザのウイルス株4種を対象としたものです。

しかし、最も求められているのはあらゆるウイルス株に作用する普遍的なインフルエンザワクチンです。すべてのウイルス株から体を守ってくれるワクチンが存在すれば、毎年新しいウイルス株に備えてワクチンを接種する必要がなくなります。

なお、mRNAワクチンの開発に携わった研究者の中には、「普遍的なインフルエンザワクチン」の開発に取り組んでいる研究者もいます。


モデルナが主導する研究では、インフルエンザゲノムに関する膨大な量のデータを収集することで、ウイルスの最も「高度に保存された」mRNAコードを見つけ出すことに成功しています。このmRNAコードは、変異によりウイルスタンパク質が構造的または機能的に変異する可能性が最も低いと考えられているとのこと。さらに、研究チームは4つの異なるウイルスタンパク質を発現するmRNAの混合物を調製することにも成功しています。


加えて、マウスを用いた研究ではこの実験的なワクチンが、インフルエンザの多様で標的化が困難なウイルス株に対して、非常に強力であることも示されています。そのため、「記事作成時点では普遍的なインフルエンザワクチンの有力な候補です」とThe Conversationは記しています。

◆2:マラリアワクチン
マラリアは、蚊に刺された時に発生する単細胞寄生虫のマラリア原虫により発生する感染症です。そのため、記事作成時点ではマラリアワクチンは存在しません。

しかし、製薬会社のGSKの研究者が、マラリアに対するmRNAワクチンの特許を申請しています。特許が申請されているこのマラリアワクチンは、PMIFと呼ばれる寄生虫タンパク質をコードしています。このタンパク質を標的にするように体に教えることで、寄生虫を根絶するための免疫系を訓練できるようになるとのこと。

このマラリアワクチンもマウスでの実験で有望な結果が出ており、イギリスでの臨床試験が計画されています。

なお、このマラリアmRNAワクチンは自己増幅型mRNAワクチンの一種で、mRNAが細胞内に入るとmRNAのコピーが生成されます。そのため、少量のmRNAを作成するだけで済み、既存の標準的なmRNAワクチンに次ぐ次世代のmRNAワクチンとして期待されています。

◆3:がんワクチン
がんの原因となるようなウイルスの感染を防ぐワクチンはすでに存在しています。例えばB型肝炎ワクチンは、一部の肝臓がんを予防し、ヒトパピローマウイルスワクチンは子宮頸がんを予防します。

しかし、mRNAワクチンの柔軟性により、ウイルスにより引き起こされるがんだけでなく、あらゆるがんを予防することにつながるワクチンの開発が注目されています。

一部の種類のがん腫瘍には正常な細胞には見られない抗原やタンパク質が含まれます。これらの腫瘍関連の抗原を特定するために免疫系を訓練することができれば、免疫細胞でがん細胞を破壊することが可能です。

がんワクチンはこれらの抗原の特定の組み合わせを標的にするように開発が進められており、ファイザーと共同で新型コロナウイルスワクチンを開発したBioNTechは、悪性黒色腫に有効に働くmRNAワクチンを開発しています。また、ドイツのバイオ医薬品企業であるCureVacは、特定タイプの肺がん用のワクチンを開発しており、初期の臨床試験で成果を上げています

他にも、個々人にパーソナライズされた抗がんmRNAワクチンが登場する可能性もあります。各患者の腫瘍に対して固有に働くワクチンを設計することができれば、個々人の免疫系を訓練し、体をがんと戦えるように鍛え上げることが可能です。このようなパーソナライズされた抗がんmRNAワクチンについて、研究グループや企業が取り組んでいます


当然ですが、mRNAワクチンにも多くの課題が存在します。

例えば、mRNAワクチンは冷凍保存する必要があるため、発展途上国や遠隔地での使用には制限があります。これに対して、モデルナは冷蔵保存できるmRNAワクチンの開発に取り組んでいると発表。

また、ワクチンを使うには規制当局の承認に先立ち、大規模な臨床試験を行う必要があります。しかし、これについては新型コロナウイルスのパンデミックによりmRNAワクチンの承認が急速に進んだため、規制上のハードルは1年前までと比べるとはるかに小さくなっています。

他にも、パーソナライズされたmRNAがんワクチンはコストが問題になる可能性があり、すべての国がmRNAワクチンを大量製造する設備を持っているわけではないという問題もあります。

ただし、The Conversationは「mRNAワクチン技術は破壊的かつ革新的であるため、これらの課題を克服して現在および未来のワクチンのありかたを変えてしまう可能性があります」と記し、mRNAワクチンの将来性に期待を寄せています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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