テスラが主張する「オートパイロットは一般の車よりも3.7倍安全」という主張をデータサイエンティストが詳細に分析
By Automobile Italia
ドライバーに替わって自動車を走らせてくれる自動運転機能「オートパイロット」の使用中に事故を起こしてドライバーが死亡した事件を受け、テスラはこの機能によって死亡事故が起こる確率は低く、一般の自動車における統計データ「8600万マイルあたり1回(約1億4000万kmあたり1回)」に比べて3.7倍安全であると主張しています。しかしこのデータに関しては批判的な見方を示す専門家も存在しており、データサイエンティストのブリンダ・A・トーマス博士はテスラが公表しているデータを詳細に調査して分析するエントリをMediumに投稿しています。
A Closer Inspection of Tesla’s Autopilot Safety Statistics
https://medium.com/@mc2maven/a-closer-inspection-of-teslas-autopilot-safety-statistics-533eebe0869d
テスラは自社製の車両による死亡事故の発生率を「走行距離3億2000万マイルあたり1回(約5億1500万kmあたり1回)」と発表しています。しかしこの数字は、テスラの説明に沿ってより厳密に記述すると「走行距離3億2000万オートパイロット・マイルあたり1回」という書き方になります。このオートパイロット・マイルの捉え方について、トーマス氏はテスラの統計法にも一定の理解を示しつつ、異論を唱えています。
「オートパイロットによる死亡事故発生率」を正しく評価するためには、実際にテスラの車両でオートパイロット機能がオンになっている状態で起こった事故の統計を取る必要があります。しかしトーマス氏は、テスラはこの数値を「オートパイロット機能を搭載している車両の総走行距離」をもとにはじき出していると指摘し、数値の扱いに不適切さがあると述べています。これはつまり、オートパイロット機能の稼働状態に関係なく、オプション装備のオートパイロット機能を搭載している車両全ての数値を集めたものであり、人間が運転している時の走行距離も含まれているために、比較対象としてふさわしくなく、見方によっては「無事故走行距離の水増しをしている」とみることもできるという指摘です。
By Steve Jurvetson
また、オートパイロットによる走行状態からマニュアルモードに戻った時に発生する事故についても考慮する必要があるとトーマス氏は述べています。オートパイロットで道路走行中に、道路の線が見えにくかったり、荒天によって視界が遮られて運転ができないとコンピューターが判断すると、オートパイロット機能はオフになって人間に操縦が任されます。このような状況で発生した事故については統計から省かれているとのことですが、トーマス氏はこれもオートパイロット運転時の一部として考えるべきであると主張しています。
テスラが比較の対象としている、一般車両の事故データ「8600万マイルあたり1回」という数字の選び方にも否定的な意見が存在しています。専門家の多くはこの数字の出どころが米国道路安全保険協会(IIHS)が公表している統計データであるとみています。しかしこの数字は、運転者および搭乗者や歩行者が、オートバイやピックアップトラック、SUV、トラック、バスなどありとあらゆる車両の事故に巻き込まれて死亡する確率を割り出したものであるため、テスラの車両に限った数字と比較するのはフェアではないという主張です。
By Ian
トーマス氏は、自動車事故の統計を取る時には「車両1台あたりの事故発生数」と「事故に巻き込まれた搭乗者および歩行者」という2つの主な要素が存在していると解説。この時、「車両1台あたりの事故発生数」の「車両」はオートパイロット搭載車両のことと同一視することができますが、「事故に巻き込まれた搭乗者および歩行者」という数値は状況によって違いが存在します。
そのため、致命的な事故発生率をはじき出す理想的な計算方法は「一人またはそれ以上の運転者および搭乗者、または歩行者が死亡した事故と、車両1台あたりの走行距離の比率」をはじき出すことであるとトーマス氏は述べています。さらに、事故に遭遇した車両の車格をそろえる必要があるとも述べています。車幅が2メートル近くあり、車重も2トン程度あるモデルSを、トヨタ・プリウスのような比較的小型な車両と同列に考えるのは公平ではないという見方です。
残念ながら、IIHSはこのようなデータを提供していないとのこと。そこで、公表されているデータ「100万台あたりの年間ドライバー死亡数は29~32人」「車両1台あたりの年間走行距離は1万1000マイル(約1万8000km)」をベースに換算すると、ドライバーの年間死亡率は「3億4000万マイル~3億8000万マイルに1人(約5.5億km~6.1億kmに1人)」ということになります。
By Sam Greenhalgh
しかし、ドライバー以外にも歩行者や乗客を含む全体の死亡事故発生率は、より高くなる可能性があります。2016年にIIHSが発表した「タイプ別事故死」のデータでは、事故全体のうちドライバーが被害を受けた事故は60%を切る数値ですが、これにはトラックのドライバーや搭乗者、自転車やオートバイの搭乗者の死者数が含まれていないとのこと。これらの数値を含めた時の死亡事故の発生率は「2億1000万~2億3000マイルに1回(3億4000万km~3億7000万kmに1回)」になると考えられます。
この数値は、テスラが公表している自社製の車両による死亡事故の発生率「走行距離3億2000万マイルあたり1回(約5億1500万kmあたり1回)」に近いものとなり、テスラの「一般の自動車よりも3.7倍安全」という主張とは大きくかけ離れたものになるとトーマス氏は述べています。トーマス氏はテスラの主張を覆す見方を示しているわけですが、これほどまでに主張の内容が食い違う理由についてトーマス氏は「テスラが比較しているのは、世の中の全ての車両による死亡事故の発生率であり、この方法は公平ではない」と述べています。
トーマス氏は、テスラはIIHSが事故発生率を算出するために用いている手法「ポアソン回帰」を用いてデータを分析すべきであると述べています。アメリカのシンクタンク「ランド研究所」は、自律車両が人間よりも20%優れているという統計的な確信を得るには、80億マイル(約130億km)以上の走行データをもとにした検証が行われる必要があるとしています。
また、ランド研究所が公表している意志決定ツールによると、2020年までに従来の車両と同じ程度かわずかに安全性が高い「部分的な自動運転車」を世に送り出すことにで、2025年に「完全自動運転車」を送り出すことよりも50年間で16万人以上の人命を救うことにつながるとのこと。つまり、部分的であっても自律運転が可能な自動車を送り出すことを遅らせることは、それだけ多くの人命が事故によって失われる可能性があることが示されています。
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